遺伝性網膜芽細胞腫の
遺伝学的検査
RB1遺伝子検査
遺伝性網膜芽細胞腫とは
網膜芽細胞腫は眼の網膜にできる悪性腫瘍です。乳幼児期での発症が多く、15,000〜20,000出生に1人の頻度で発生します1)。網膜芽細胞腫の95%が5歳未満で診断されています。網膜芽細胞腫が片側だけに生じる片眼性のタイプと両側に生じる両眼性のタイプがあり、片眼性の10〜15%・両眼性のほとんどが遺伝性だといわれています。遺伝性網膜芽細胞腫は全体の約40%を占めます。
遺伝性網膜芽細胞腫で最も多くみられるがんは網膜芽細胞腫ですが、それ以外のがん(二次がん)の発症についても、生まれつきRB1遺伝子の病的バリアントを持っている人は持っていない人に比べ、発症リスクが高いことが知られています(表1)。この二次がんの発症が患者の生命予後を左右するため、二次がん発症の予防(二次がんのリスクについて知ること、定期的な検診を受けること)が、とても重要です。
発症年齢(平均) | 発症リスクの増加する二次がん2) |
---|---|
15〜17歳 | 骨肉腫、軟部肉腫、鼻腔、眼、眼窩腫瘍、脳腫瘍、皮膚がん |
成人 | 肺、膀胱、乳房、子宮の肉腫 |
遺伝学的検査
RB1遺伝子に病的バリアントが検出された場合、“遺伝性網膜芽細胞腫”と確定診断されます。病的バリアントの約40%はバリアントの集中するホットスポットに存在することが知られています。しかし、残る60%のバリアントは遺伝子全体に分布しているため、遺伝子全体をくまなく検査する必要があります3)。また、網膜芽細胞腫の中にはいわゆる病的バリアントが原因ではなく、RB1遺伝子が存在する13番染色体の長腕の欠失(13q-)が原因の場合があり、原因検索のために染色体検査が行われることもあります。
遺伝学的検査を行う意義
RB1遺伝子の病的バリアントを検出することにより遺伝性網膜芽細胞腫と確定診断することは、遺伝性網膜芽細胞腫に合った医学管理を行う根拠となります。例えば、最初の遺伝性網膜芽細胞腫の診断後、新たな腫瘍の発症に備え、数か月単位で診察を受けることが推奨されています。また、二次がんに関しては放射線治療により発症リスクが上昇することが知られているので、定期的な診察に加え、遺伝性網膜芽細胞腫を考慮した治療を検討する必要があります。
また、病的バリアントが検出された方(発端者)の血縁者においては、発端者で見つかった病的バリアントの有無のみを確認するシングルサイト検査を行うことができます。病的バリアントの有無を確認することは、血縁者、特に次世代(発端者の子ども)の医学管理を出生直後から行う上でもとても重要です。
遺伝形式と浸透率
遺伝性網膜芽細胞腫では、25%の症例が常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとり、残りの75%の症例が受精卵から成長していく過程の初期段階(子宮内)で病的バリアントが発生したものだといわれています4)。
浸透率は高く、大部分の遺伝性網膜芽細胞腫の家系では、病的バリアントをもつ全ての血縁者で両眼に複数の腫瘍が発生します5)。しかし、症例全体の10%以下では表現型が軽い(片眼性の網膜芽細胞腫に多い)ため、浸透率が一見低く見える家系も報告されています5)。また、遺伝性網膜芽細胞腫では遺伝型・表現型相関(genotype-phenotype correlation)があることも知られています。さらに、バリアントの種類によって、あるいは両親のどちらから病的バリアントを受け継いでいるかによって浸透率が変わる「片親起源効果」も報告されています5)6)7)。そのため、リスク評価には慎重な対応が必要です。
受託要件
当社にて遺伝学的検査を受託するにあたっては、【受託実施指針】に伴い、「体制確認書」の提出をお願いしています。
ご依頼いただく際は、お問い合わせください。
検査項目
検査項目 | 検体量 (末梢血) |
保存条件 | 検査日数 | 検査方法 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全血2ml | 冷蔵 | 21~22日 | NGS法およびMLPA法 | |||||
RB1 スクリーニング |
RB1遺伝子の全翻訳領域の27個のエクソン(エクソン1〜27)と隣接するイントロン領域について塩基配列を解析します。あわせてエクソンレベルの比較的大きな欠失や重複も同時に解析します。 | 全血2ml | 冷蔵 | 21~22日 | NGS法およびMLPA法 | |||
シングルサイト | シングルサイトにつきましては、こちらをご確認ください |
D006-4 遺伝学的検査(5,000点)<一部抜粋>
- (1)遺伝学的検査は以下の遺伝子疾患が疑われる場合に行うものとし、原則として患者1人につき1回算定できる。ただし、2回以上実施する場合は、その医療上の必要性について診療報酬明細書の摘要欄に記載する。
- イ.②ハンチントン病、網膜芽細胞腫、甲状腺髄様癌及び多発性内分泌腫瘍症1型
- 【ご注意ください】
-
- 1)造血器腫瘍を発生したことのある被検者は、検査が出来ない場合があります。別途ご相談下さい。
- 2)EDTA 2Naによる採血を推奨しています。
- 3)所要日数は、検体を受領した翌日を起算日として、祝日を除いた日数です。
- 4)遺伝子の5’UTRや3’UTRおよびイントロンの深部(エクソンとの境界部から離れた領域)は解析の対象外です。
参考文献
- 1)小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/details/01_05_029/ - 2)小児期遺伝性腫瘍診療ガイダンス 2020年版
- 3)小児がん診療ガイドライン2016
- 4)がん情報サイトPDQ日本語版最新がん情報 網膜芽細胞腫の治療(小児)医療専門家 向け
https://cancerinfo.tri-kobe.org/summary/detail_view?pdqID=CDR0000062846&lang=ja - 5)GeneReviewsJapan
http://grj.umin.jp/grj/retinoblastoma.htm - 6)Hülsenbeck I et al.Cancers (Basel). 2021 Mar 31;13(7):1605.
- 7)Alekseeva E A et al.Cancers (Basel). 2021 Oct 10;13(20):5068