Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群(CS/PHTS)の
遺伝学的検査
PTEN遺伝子検査

Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群(CS/PHTS)とは

Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群(Cowden syndrome:CS/PTEN hamartoma tumor syndrome:PHTS)は、生殖細胞系列におけるPTEN遺伝子の病的バリアントを原因とする遺伝性疾患です。CS/PHTSには症状の違いによりCowden症候群(CS)、バナヤン・ライリー・ルバルカバ症候群(BRRS)、成人型レルミット・ダクロス病(LDD)などが知られており、総称してCS/PHTSと呼ばれていますが、その多くはCSです。
CSでは30歳までにほぼ全例で特徴的な皮膚粘膜病変(外毛根鞘腫や乳頭丘様丘疹)が現れます1)。また、悪性腫瘍に罹患するリスクも高く、乳がん、甲状腺がん、子宮内膜がん、大腸がん、腎細胞がんなどの発症リスクが高いことが知られています。そのほかの臨床的特徴としては食道グリコーゲンアカントーシス、小児期では巨頭症、自閉症スペクトラム症、知的障害がみられ、これらがCSの診断の契機になることもあります1)
CS/PHTSには以下のような臨床診断基準があります(表1)。

表1 CS/PHTS臨床診断基準2)

次のいずれかに当てはまる場合、CS/PHTSと診断される。

  • 1) 大基準3つ以上を満たすが、そのうち1つは巨頭症、成人型レルミット・ダクロス病または消化管過誤腫である。
  • 2) 大基準2つ以上と小基準3つ以上

家族にCS/PHTSが存在する(臨床診断基準を満たす/PTEN遺伝子の病的バリアントが検出されている)場合、次のいずれかに当てはまるとCS/PHTSと診断される。

  • 1) 大基準2つ以上
  • 2) 大基準1つと小基準2つ以上
  • 3) 小基準3つ以上
大基準 小基準
  • 乳がん
  • 子宮内膜がん
  • 甲状腺濾胞がん
  • 消化管過誤腫*1 3個以上
  • 成人型レルミット・ダクロス病
  • 巨頭症*2
  • 陰茎亀頭の斑状色素沈着
  • 多発性皮膚粘膜病変(以下のいずれか)
    • 多発性外毛根鞘腫3個以上
      (少なくとも1つは生検で確診)
    • 肢端角化症3個以上
      (掌蹠角化症丘疹/肢端角化性丘疹)
    • 皮膚粘膜神経腫3個以上
    • 口腔粘膜の乳頭腫状病変(特に歯肉/舌)
      (3個以上か生検で確診もしくは皮膚科で診断)
  • *1:神経節細胞腫を含むが、過形成性ポリープは含まない
  • *2:97パーセンタイル以上:女性58㎝、男性60㎝
  • 自閉症スペクトラム症
  • 大腸がん
  • 食道グリコーゲンアカントーシス3個以上
  • 脂肪腫3個以上
  • 知的障害(IQ75以下)
  • 腎細胞がん
  • 精巣脂肪腫症
  • 甲状腺がん
    (乳頭がんまたは濾胞型乳頭がん)
  • 甲状腺の構造的病変
    (腺腫、腺腫様甲状腺腫など)
  • 血管異常
    (多発性脳静脈奇形など)

また、NCCNガイドラインではCS/PHTSの遺伝学的検査を考慮するための基準が示されています(表2)。

表2 PTEN遺伝子検査のための基準 一部抜粋3)

以下のいずれかに当てはまる場合。

  • 家系内でPTEN遺伝子の病的バリアントが検出されている
  • BRRSの既往
  • CS/PHTSの臨床診断基準に合致
  • CS/PHTSの臨床診断基準に合致はしないが、以下のいずれかの既往歴あり
    • 成人型レルミット・ダクロス病(小脳腫瘍)
    • 自閉症スペクトラム症と巨頭症
    • 2個以上の確診された外毛根鞘腫
    • 大基準2つ以上(そのうち1つは巨頭症)
    • 大基準3つ以上(巨頭症は含まない)
    • 大基準1つと小基準3つ以上
    • 小基準4つ以上

遺伝形式と浸透率

CS/PHTSは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとります。PTEN遺伝子に病的バリアントが検出された場合、その方の子どもには性別にかかわらずそれぞれ1/2(50%)の確率で同じ病的バリアントが受け継がれます。
疾患頻度は200,000人に1人とされていますが、症状が多彩で、また臨床的徴候がわずかなことがあるため、臨床的に十分に認識されず診断がついていない場合もあると考えられています。日本人の浸透率は明らかではありませんが、CS/PHTSでは様々な悪性腫瘍の発症リスクが上昇することが知られています。その中でも乳がんが最も高く、生涯罹患リスクは25~85%と報告されています1)。その他の悪性腫瘍のリスクは甲状腺がん10~35%、大腸がん9~16%、子宮内膜がん19~28%、腎がん34%とも報告されています1)

遺伝学的検査

PTEN遺伝子に病的バリアントが検出された場合、CS/PHTSと確定診断されます。
PHTSで検出される病的バリアントの2/3はPTEN遺伝子のエクソンの5、7、8で生じるとの報告がありますが、9つあるエクソンのすべてで病的バリアントは確認されています4)。また、PHTSの約3~10%にPTEN遺伝子のエクソン単位の大欠失がみられたとの報告もあります4)。そのため、PTEN遺伝子の解析には塩基配列解析(DNAシークエンシング)だけではなく欠失/重複解析(MLPA法)も併せて行う必要があります。
CSでは約80%にPTEN遺伝子に病的バリアントが検出されるとされていますが、約10%は通常の検査では検出できない欠失・重複・プロモーター領域の塩基配列異常が認められるといわれています1)。そのため、現時点でPTEN遺伝子の病的バリアントが検出されなくても、CS/PHTS の臨床診断基準を満たしている場合、その臨床診断を否定することはできません。
NCCNガイドラインでは、臨床診断基準をもとにCS/PHTSの検査を実施する基準が提唱されています(表2)。これらの基準に合致した場合やBRRSの既往、家系内でPTEN遺伝子の病的バリアントが検出されている場合などに、マルチジーンパネル検査も含めた遺伝学的検査の実施が推奨されています3)

遺伝学的検査を行う意義

PTEN遺伝子の病的バリアントの検出により、CS/PHTSと確定診断することは、関連腫瘍のフォローアップなどCS/PHTSに合った医学的管理を行う根拠となります。
また、CS/PHTSと診断された方(発端者)の血縁者に対して発端者で見つかった病的バリアントの有無のみを確認するシングルサイト検査を行うことができます。発端者と同じ病的バリアントが検出された場合、未発症の血縁者に対しても効果的なサーベイランスを実施することで疾患の早期発見・早期治療に結びつけることができます。

受託要件

当社にて遺伝学的検査を受託するにあたっては、【受託実施指針】に伴い、「体制確認書」の提出をお願いしています。
ご依頼いただく際は、お問い合わせください。

検査項目

検査項目 検体量
(末梢血)
保存条件 検査日数 検査方法
全血2ml 冷蔵 21~22日 NGS法およびMLPA法
PTEN
スクリーニング
PTEN遺伝子の全翻訳領域の9個のエクソン(エクソン1〜9)と隣接するイントロン領域について塩基配列を解析します。あわせてエクソンレベルの比較的大きな欠失や重複(MLPA法)も同時に解析します。 全血2ml 冷蔵 21~22日 NGS法およびMLPA法
シングルサイト シングルサイトにつきましては、こちらをご確認ください
【ご注意ください】
  1. 1)造血器腫瘍を発生したことのある被検者は、検査が出来ない場合があります。別途ご相談下さい。
  2. 2)EDTA 2Naによる採血を推奨しています。
  3. 3)所要日数は、検体を受領した翌日を起算日として、祝日を除いた日数です。
  4. 4)遺伝子の5’UTRや3’UTRおよびイントロンの深部(エクソンとの境界部から離れた領域)は解析の対象外です。

参考文献

  1. 1)小児・成人のためのCowden症候群/PTEN過誤腫症候群診療ガイドライン(2020年版)
  2. 2)Pilarski R et al. J Natl Cancer Inst. 2013 Nov 6;105(21):1607-16.
  3. 3)NCCN Guidelines.Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast, Ovarian, and Pancreatic Version1.2023
  4. 4)Yehia L et al. J Clin Invest. 2019 Feb 1; 129(2): 452–464.