多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の
遺伝学的検査
RET遺伝子検査

多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)とは

多発性内分泌腫瘍症2型(multiple endocrine neoplasia type2:MEN2)は甲状腺髄様がんならびにその前病変であるC細胞過形成や副腎褐色細胞腫、原発性副甲状腺機能亢進症を主徴とする遺伝性疾患です。MEN2は臨床像や家族歴に基づき、以下のように分類されています(表1)。

表1 MEN2の病型とそれぞれの病型の特徴

病型 割合1) 臨床像
MEN2A 約95%
MEN2A:70~80%
FMTC:約10~20%
甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、原発性副甲状腺機能亢進症
FMTC*1
MEN2Aの亜型と考えられる
甲状腺髄様がんのみ
MEN2B 約5% 甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、舌・口唇などの粘膜下神経腫、マルファン様体型、四肢過伸展、腸管神経肥厚
MEN2A 割合1)
約95%
MEN2A:70~80%
FMTC:約10~20%
臨床像
甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、原発性副甲状腺機能亢進症
FMTC*1
MEN2Aの亜型と考えられる
割合1)
約95%
MEN2A:70~80%
FMTC:約10~20%
臨床像
甲状腺髄様がんのみ
MEN2B 割合1)
約5%
臨床像
甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、舌・口唇などの粘膜下神経腫、マルファン様体型、四肢過伸展、腸管神経肥厚
  • *1:FMTC(familial medullary thyroid carcinoma):家族性甲状腺髄様がん

MEN2には以下のような臨床診断基準があります(表2)。

表2 MEN2臨床診断基準2)

以下のうちいずれかを満たすものをMEN2(MEN2AまたはMEN2B)と診断する。

  • 甲状腺髄様がんと褐色細胞腫を有する。
  • 上記2病変のいずれかを有し、一度近親者(親、子、同胞)にMEN2と診断された者がいる。
  • 上記2病変のいずれかを有し、RET遺伝子の病的バリアントが確認されている。

以下を満たすものをFMTCと診断する。

  • 家系内に甲状腺髄様がんを有し、かつ甲状腺髄様がん以外のMEN2関連病変を有さない患者が複数いる。

甲状腺髄様がん以外の病変は浸透率が100%ではないため、血縁者の数が少ない場合には臨床情報からMEN2AとFMTCを厳密に区別することが不可能であるとされています2)。一方、MEN2Bでは身体的な特徴があるため、MEN2AやFMTCと区別することは可能です2)

遺伝学的検査

一般的に、患者の臨床情報から遺伝性か散発性かを区別することは容易ではありません。遺伝性髄様がんの98%以上にRET遺伝子の病的バリアントが検出されます3)。しかし、甲状腺髄様がんや褐色細胞腫の家族歴がなく臨床的に散発性と思われる甲状腺髄様がん症例においても、約4~20%でRET遺伝子の病的バリアントが検出されると報告されています2)。そのため、遺伝性か散発性かの最終的な診断は遺伝学的検査の結果に依るべきと言われています3)。さらに、すべての甲状腺髄様がんに対し、MEN2を疑ってRET遺伝子検査を行うことも推奨されています2)

なお、MEN2では各病型の原因となるRET遺伝子の病的バリアントは特定の位置(ホットスポット)で生じます。そのため、塩基配列解析(DNAシークエンシング)ではすべてのエクソンではなく、特定のエクソンの解析を行います。また、MEN2は機能獲得機構により発生するため、大領域の欠失/重複は報告されていません1)。そのため、欠失/重複を調べるMLPA法の必要はないと考えられています。

遺伝学的検査を行う意義

RET遺伝子の病的バリアントが検出されることにより、MEN2と確定診断することは、MEN2の特徴に応じた治療やがんの発症予防などを行う根拠となります。例えば、甲状腺髄様がんではRET遺伝子の病的バリアントを持つ方に対し、甲状腺全摘術を行うことを推奨しています。

さらにMEN2では、RET遺伝子の病的バリアントの位置によりMEN2でみられる病変の発症率や悪性度が異なることが知られています1)2)3)。サーベイランスの時期や方法を決定する上でも遺伝学的検査を行うことは非常に意義があると言えます。

また、褐色細胞腫の原因遺伝子はRET遺伝子以外にも複数あることが報告されています。そのため、他の遺伝性疾患と区別するうえでもRET遺伝子の病的バリアントの有無を確認することは非常に重要です。

発端者に病的バリアントが検出された場合、血縁者に対して発端者で検出された病的バリアントの有無のみを確認するシングルサイト検査を行うことができます。これにより、未発症の血縁者に対しても予防的甲状腺全摘手術を実施したり、甲状腺以外の病変に対してもサーベイランスを実施することが可能となり疾患の早期発見・早期治療に結びつけることができます。

遺伝形式と浸透率

MEN2は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとります。RET遺伝子に病的バリアントが認められた場合、その方の子どもには性別にかかわらずそれぞれ1/2(50%)の確率で同じ病的バリアントが受け継がれます。MEN2は浸透率が高く、いずれの病型においても甲状腺髄様がんの生涯発症率はほぼ100%と考えられています。それ以外の病変の浸透率は各病型により異なります(表3)。
生命予後は甲状腺随様がんの進行や褐色細胞腫によって引き起こされる突然死などにより大きく左右されます。したがって、これらの死亡原因を限りなく低減する医学的介入が重要となります。

表3 各病変の病型別浸透率2)

病変 MEN2A FMTC MEN2B
甲状腺髄様がん 100% 100% 100%
褐色細胞腫 60% 0% 70%
原発性副甲状腺機能亢進症 10% 0% 0%
粘膜神経腫 0% 0% 100%
Marfan様体型 0% 0% 80%

受託要件

当社にて遺伝学的検査を受託するにあたっては、【受託実施指針】に伴い、「体制確認書」の提出をお願いしています。
ご依頼いただく際は、お問い合わせください。

検査項目

検査項目 検体量
(末梢血)
保存条件 検査日数 検査方法
全血2ml 冷蔵 14~15日 NGS法
RET
スクリーニング
RET遺伝子の8個のエクソン(エクソン5,8,10,11,13,14,15,16)と隣接するイントロン領域について塩基配列を解析します。 全血2ml 冷蔵 14~15日 NGS法
シングルサイト シングルサイトにつきましては、こちらをご確認ください

D006-4 遺伝学的検査(5,000点)<一部抜粋>

  • (1)遺伝学的検査は以下の遺伝子疾患が疑われる場合に行うものとし、原則として患者1人につき1回算定できる。ただし、2回以上実施する場合は、その医療上の必要性について診療報酬明細書の摘要欄に記載する。
    • イ.②ハンチントン病、網膜芽細胞腫、甲状腺髄様癌及び多発性内分泌腫瘍症1型
【ご注意ください】
  1. 1)造血器腫瘍を発生したことのある被検者は、検査が出来ない場合があります。別途ご相談下さい。
  2. 2)EDTA 2Naによる採血を推奨しています。
  3. 3)所要日数は、検体を受領した翌日を起算日として、祝日を除いた日数です。
  4. 4)遺伝子の5’UTRや3’UTRおよびイントロンの深部(エクソンとの境界部から離れた領域)は解析の対象外です。

参考文献

  1. 1)GenereviewsJapan 多発性内分泌腫瘍症2型
    http://grj.umin.jp/grj/men2.htm
  2. 2)「多発性内分泌腫瘍症診療ガイドブック」金原出版,2013
  3. 3)日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018年版」