家族性大腸腺腫症(FAP)の
遺伝学的検査
APC遺伝子検査

家族性大腸腺腫症(FAP)とは

家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)は生殖細胞系列におけるAPC遺伝子の病的バリアントを原因とする遺伝性疾患です。大腸の多発性腺腫を主徴とし、放置するとほぼ100%の症例に大腸がんが発生します。大腸がん以外にも消化管やその他様々な臓器に腫瘍性あるいは非腫瘍性の随伴病変が発生します(表1)。

FAPは大腸腺腫密度により、腺腫(腺腫性ポリープ)が正常粘膜を覆うほど数多く発生する密生型FAP、腺腫が正常粘膜を覆わない程度で100個以上の非密生型FAP、腺腫数が10個以上100個未満のattenuated FAP(AFAP)に分類され、密生型FAPと非密生型FAPをあわせて典型的(古典的)FAPとも呼称されます。
日本での全人口における頻度は、17,400人に1人、全大腸がん患者のうち1%未満がFAP患者と推定されています1)

表1.FAPに随伴する主な大腸外病変1)

胃底腺ポリポーシス 十二指腸ポリポーシス
胃腺腫 十二指腸乳頭部腺腫
空・回腸腺腫 デスモイド腫瘍
先天性網膜色素上皮肥厚 類上皮腫
過剰歯、埋没歯 甲状腺がん
副腎腫瘍 脳腫瘍
肝芽腫 頭蓋骨腫、顎潜在骨腫

遺伝学的検査と検査を行う意義

FAPには、以下のような診療診断基準があります(表2)。

表2.FAP診療診断基準

次のいずれかの場合、FAPと診断する

  • ・大腸の腺腫が100個以上の場合
  • ・大腸の腺腫が100個未満の場合であっても、FAPの家族歴や随伴病変を伴う場合。

FAPと臨床的に診断されている場合、遺伝子検査による確定診断は必須ではありません。しかし、APC遺伝子の病的バリアントの部位と表現型(大腸腺腫の数や随伴病変)には関連があるとの報告が多数あるため、遺伝子検査の結果は確定診断だけではなく、患者の診療方針の決定やサーベイランスを考慮する上で重要な情報となることがあります。
また、APC遺伝子プロモーター1B領域の異常で起こる胃腺がんおよび胃近位ポリポーシス(GAPPS)*¹の原因特定にも役立ちます。

また、病的バリアントが同定された方(発端者)の場合、血縁者においては発端者で見つかった病的バリアントの有無のみを確認するシングルサイト検査を行うことができます。発端者と同じ病的バリアントが同定された場合、未発症の時期から効果的なサーベイランスを実施することで早期診断や早期治療が可能になります。また、病的バリアントを持たない血縁者では、無駄なサーベイランスの実施を回避することができます。
APC遺伝子検査はAFAPとMUTYH関連ポリポーシス(MAP)*²やポリメラーゼ校正関連ポリポーシス(PPAP)*³との鑑別にも有効です。これらは大腸の腺腫数やFAPの随伴病変の存在など臨床症状だけではFAPと区別することができません。APC遺伝子検査でFAPと確定診断することは、患者の診療方針の決定だけではなく、血縁者のリスク評価の情報を得る上でも非常に重要です。

  1. *1:胃腺がんおよび胃近位ポリポーシス(Gastric Adenocarcinoma and Proximal Polyposis of the Stomach:GAPPS)
    APC遺伝子のプロモーター1B領域に生殖細胞系列の病的バリアントが生じ、胃のAPC遺伝子の発現が抑制される。胃底腺ポリポーシスを主徴とし、大腸や十二指腸との関連はほとんどの患者で報告がない。
  2. *2:MUTYH関連ポリポーシス(MUTYH-Associated Polyposis: MAP)
    MUTYH遺伝子の両アレルの生殖細胞系列の病的バリアントが原因で起こる常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性疾患。大腸に10~100個の腺腫を認め、大腸がんの浸透率は60歳までに43~100%である1)。FAPと同様の随伴病変の報告もある。
  3. *3:ポリメラーゼ校正関連ポリポーシス(Polymerase Proofreading-Associated Polyposis: PPAP)
    POLE遺伝子やPOLD1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントが原因で起こる常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患。大腸腺腫は0~数十個である。通常の大腸がんと組織学的に区別がつかないため、確定診断には遺伝学的検査が必要。

遺伝形式と浸透率

FAPは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとります。APC遺伝子に病的バリアントが認められた場合、その方の子どもには性別に関わらずそれぞれ1/2(50%)の確率で同じ病的バリアントが受け継がれます。浸透率は高く、大腸ポリポーシスの所見は15歳で60%、20歳で80%、35歳前後でほぼ100%に見られます。また、大腸がんの発生は40歳で50%、放置すれば60歳ごろにはほぼ100%に達するとされています1)

受託要件

当社にて遺伝学的検査を受託するにあたっては、【受託実施指針】に伴い、「体制確認書」の提出をお願いしています。
ご依頼いただく際は、お問い合わせください。

検査項目

検査項目 検体量
(末梢血)
保存条件 検査日数 検査方法
APCスクリーニング 全血2ml 冷蔵 21~22日 NGS法およびMLPA法
APC遺伝子の非翻訳領域の1個のエクソン領域(エクソン1(1B))と全翻訳領域の15個のエクソン(エクソン4~18)と隣接するイントロン領域について塩基配列を解析します。あわせてエクソンレベルの比較的大きな欠失や重複(MLPA法)も同時に解析します。 全血2ml 冷蔵 21~22日 NGS法およびMLPA法
シングルサイト シングルサイトについてはこちらをご確認ください。
【ご注意ください】
  1. 1)造血器腫瘍を発生したことのある被検者は、検査が出来ない場合があります。別途ご相談下さい。
  2. 2)EDTA 2Naによる採血を推奨しています。
  3. 3)所要日数は、検体を受領した翌日を起算日として、祝日を除いた日数です。
  4. 4)遺伝子の5’UTRや3’UTRおよびイントロンの深部(エクソンとの境界部から離れた領域)は解析の対象外です。

参考文献

  1. 1)遺伝性大腸癌診療ガイドライン2020年版 金原出版,2020