多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の
遺伝学的検査
MEN1遺伝子検査

多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)とは

多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine nenoplasia type1:MEN1)は、原発性副甲状腺機能亢進症、膵・消化管内分泌腫瘍、下垂体腺腫を3大主徴とする遺伝性疾患です。
MEN1には以下のような臨床診断基準があります(表1)。

表1 MEN1臨床診断基準1)

以下のいずれかを満たすものをMEN1と診断する

  • 原発性副甲状腺機能亢進症、膵・消化管内分泌腫瘍、下垂体腺腫のうち2つ以上を有する
  • 上記3病変のうち1つを有し、第一度近親者(親、子、同胞)にMEN1と診断された者がいる
  • 上記3病変のうち1つを有し、MEN1遺伝子の病的バリアントが確認されている

MEN1では20種類以上の内分泌腫瘍あるいは非内分泌腫瘍が様々な組み合わせで生じます2)。臨床像は腫瘍が産生するホルモンによって患者ごとに異なるため、同じ病的バリアントを持っている同一家系員であっても、現れる症状には個人差があることが知られています1)。生命予後は良好といわれていますが、膵・消化管内分泌腫瘍や胸腺内分泌腫瘍は悪性となる場合もあり、予後不良の要因となります1)

遺伝学的検査

MEN1遺伝子に病的バリアントが検出された場合、MEN1と確定診断されます。MEN1遺伝子に見られる病的バリアントは全ての翻訳領域(エクソン2~10)で検出されています。MEN1遺伝子には特定の部位にバリアントが集中するホットスポットはないため、MEN1遺伝子検査では全ての翻訳領域を解析する必要があります1)
塩基配列解析(DNAシークエンシング)と欠失/重複解析(MLPA法)を行うことで、典型的なMEN1の症状が確認されている家系の70~90%のMEN1遺伝子の病的バリアントを検出することが可能です3)。一方MEN1の臨床的な特徴がみられる患者の10~30%ではMEN1遺伝子に病的バリアントが検出されないことも報告されています3)。これは、現在一般的に行われている解析法の対象外である領域(非翻訳領域、イントロン、調節領域)に病的バリアントが存在している場合や体細胞モザイク、MEN1と同様の症状(MEN1-like condition)がみられる他の遺伝子に病的バリアントが存在している可能性が考えられています3)

遺伝学的検査を行う意義

MEN1遺伝子の病的バリアントの検出によるMEN1の確定診断は、MEN1に合った外科的治療、薬物治療、定期的なサーベイランスなど散発性(非遺伝性)腫瘍とは異なるMEN1の特異性を考慮した医学的管理を行う根拠となります。例えば、予後不良の要因となる悪性の神経内分泌腫瘍に対しては、早期発見・早期治療が患者の臨床経過や生命予後を改善すると報告されています2)

MEN1遺伝子の病的バリアントが検出されなかった(検査結果陰性)症例の10~30%では、MEN1と同様の症状がみられる他の遺伝子の病的バリアントが検出されていることも報告されています3)。これらの症例はMEN1遺伝子に病的バリアントが検出された症例に比べ症状の進行が緩やかであることが報告されています3)。そのため、臨床的にMEN1と診断されている症例であっても、MEN1遺伝子の病的バリアントの有無を確認することは、過度のサーベイランスの実施を避けることができるなど、より患者一人一人に適したサーベイランスの実施や治療を行う情報源となり得ます。

また、MEN1と診断された方(発端者)の血縁者においては、発端者で見つかった病的バリアントの有無のみを確認するシングルサイト検査を行うことができます。発端者と同じ病的バリアントが検出された場合、未発症の時期から効果的なサーベイランスを実施することで早期診断や早期治療が可能になります。また、病的バリアントを持たない血縁者では、必要のない過剰なサーベイランスの実施を回避することができます。

遺伝形式と浸透率

MEN1は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとります。MEN1遺伝子に病的バリアントが検出された場合、その方の子どもには性別にかかわらずそれぞれ1/2(50%)の確率で同じ病的バリアントが受け継がれます。浸透率は高く、MEN1遺伝子に病的バリアントを持つ人のほぼ100%は50歳までに原発性副甲状腺機能亢進症を発症します。また、浸透率は副甲状腺機能亢進症ほど高くはないものの、次のように様々な腫瘍発生との関連性が知られています(表2)。

表2 MEN1の病変と浸透率1)

病変 浸透率
原発性副甲状腺機能亢進症 95%
膵・消化管内分泌腫瘍
(ガストリノーマ、インスリノーマ、グルカゴノーマ、VIP産生腫瘍)
60%
下垂体腫瘍
(プロラクチン産生腫瘍、GH産生腫瘍、TSH産生腫瘍、ACTH産生腫瘍など)
50%
副腎皮質腫瘍 20%
胸腺・気管支神経内分泌腫瘍 7%
皮膚腫瘍
(顔面血管繊維腫、結合組織母斑、脂肪腫)
40%

受託要件

当社にて遺伝学的検査を受託するにあたっては、【受託実施指針】に伴い、「体制確認書」の提出をお願いしています。
ご依頼いただく際は、お問い合わせください。

検査項目

検査項目 検体量
(末梢血)
保存条件 検査日数 検査方法
全血2ml 冷蔵 21~22日 NGS法およびMLPA法
MEN1
スクリーニング
MEN1遺伝子の全翻訳領域の9個のエクソン(エクソン2〜10)と隣接するイントロン領域について塩基配列を解析します。あわせてエクソンレベルの比較的大きな欠失や重複(MLPA法)も同時に解析します。 全血2ml 冷蔵 21~22日 NGS法およびMLPA法
シングルサイト シングルサイトにつきましては、こちらをご確認ください

D006-4 遺伝学的検査(5,000点)<一部抜粋>

  • (1)遺伝学的検査は以下の遺伝子疾患が疑われる場合に行うものとし、原則として患者1人につき1回算定できる。ただし、2回以上実施する場合は、その医療上の必要性について診療報酬明細書の摘要欄に記載する。
    • イ.②ハンチントン病、網膜芽細胞腫、甲状腺髄様癌及び多発性内分泌腫瘍症1型
【ご注意ください】
  1. 1)造血器腫瘍を発生したことのある被検者は、検査が出来ない場合があります。別途ご相談下さい。
  2. 2)EDTA 2Naによる採血を推奨しています。
  3. 3)所要日数は、検体を受領した翌日を起算日として、祝日を除いた日数です。
  4. 4)遺伝子の5’UTRや3’UTRおよびイントロンの深部(エクソンとの境界部から離れた領域)は解析の対象外です。

参考文献

  1. 1)「多発性内分泌腫瘍症診療ガイドブック」金原出版,2013
  2. 2)GenereviewsJapan 多発性内分泌腫瘍症1型
    http://grj.umin.jp/grj/men1.htm
  3. 3)Brandi M L, et al.Endocr Rev. 2021 Mar 15;42(2):133-170.